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1年に一度、自分を「身許調査」にかける男

私はこれまでの人生で、「人間とは、これほどまでに自分のことがわかっていないものか」ということを何十回となく経験した。

たとえば営業マン訓練の場で、彼らのセールストークを録音する。

それをリピートして本人に聞かせるわけだが、初めて聞いた人はほとんどが、

「これが私の声ですか。別人の声みたいです」という感想をもらすのである。

自分の声を自分で聞いて、自分の声とは思えない、つまり人というものは、驚くほど自分のことがわかっていないわけだ。

しかし、満たされた人生、成功人生を過ごす人には、自分を客観視できる人、またはそういう努力を惜しまない人が多い。

三洋電機の後藤清一さんが、かつてこんなことを語っていた。

「松下幸之助さんがあるとき、社員向けの演説の後で、後藤くん、わしの話を聞いてどう思うと聞かれたんですわ。

私が聞いたところでは、率直なところ『ああ』とか『ええ』という言葉が多くて耳障りでした。

そこで、『ああとかええというのが多すぎます』と意見を言いましたら、それからというものは、

『後藤くん、今日は何回ぐらいだったか』と、ああとええの回数を聞かれる。

何回でしたと言うと、『そうか、もっと気張って少なくせなあかんな』と松下さんはおっしゃった。

以来私は、松下社主の姿勢に打たれました。

自分の話しぶりが、聞き手にどう映っているかを検証し反省する姿勢。

松下さんの話しぶりは見事なものになっていったのは言うまでもありません」

松下さんは、経営の神様の名をほしいままにした人だが、そういう人でさえ、

自分のこと(この場合話ぐせ)がわからないからこそ、部下の率直な意見に耳を傾けた。

私の知り合いのある社長は、年に一回は友人に、「金はもちろん私が払うから、私のことを調査機関に頼んで身許調査にかけてくれないか」と頼む。

要するに自分のことを第三者に調べさせ、その評価を自己反省の材料にするわけである。

これは相当の勇気がいることだと思う。

自己客観視への強い意欲と自己成長への熱意がなければ、こういう行動は起こせない。

もちろん逆に、人生につまずきやすい人ほど、自分のことを、「わかっているつもりでわかっていない」ものである。

周囲との調和ある生き方をしてこそ、幸せは得られる。その調和のためには、自己客観視こそ大事な要件となる。

(三笠書房 一日一話寝る前に「読むクスリ」二見道夫著より)


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