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◇日本の「食」を見直す

◆90年代以降急速に悪化

1980年代、食生活は日本の誇りであった。

PFCバランス(タンパク質、脂質、炭水化物の3大栄養素のバランス)がよく、

植物性タンパク質や海産物など、多様な栄養を摂取し、季節感に富むなど、

欧米先進国に対しても胸をはる食生活であった。

「日本型食生活」は当時の流行語であった。

ところが、1990年代以降、日本の食生活は急速に悪化する。

90年代に入って脂肪の摂取過多に陥る。

安価な中国野菜の流入にもかかわらず野菜の摂取量が減少し、

米国の平均値を下回るようになったのも90年代である。

戦後じわじわと減少してきた食塩摂取量も89年を境に上昇傾向へと転じてしまう。

とくに深刻なのは、子供の食生活の乱れである。

専門家の再三の警告にもかかわらず、小児肥満や骨折の増加には歯止めがかからない。

90年代以降、子供の基礎体力が低下し続けているが、

これも食生活の乱れが大きな要因である。

食生活の乱れは精神的な集中力・持続力の低下にもつながるから、

昨今問題になっている子供の基礎学力低下の一因になっている可能性も高い。

食生活が乱れ、体力が低下した子供たちが成人になったとき、

いわゆる生活習慣病の蔓延や社会の士気低下によって、

われわれの社会が自滅しかねない。

昨今、少子高齢化が問題にされているが、かりに高齢になっていても健康であれば、

社会の負担という点ではさほど深刻な問題でない。

むしろ、このままでは、若年での生活習慣病が蔓延し、

それによる社会保険の破綻を心配しなければならない。

◆弁当でカルシューム不足に

食生活の乱れの原因は何か?

経済成長や女性の社会進出を指摘する意見もあるが、それは根拠に乏しい。

90年以降は、実質ゼロ成長の時代である。

遅ればせながら女性の地位も改善策がとられるようになり、

職場でもワーク・シェアリングが進んだ。

レジャーなどで家庭回帰が進んだ時期でもある。

率直に言って、食生活の乱れの原因は、家庭の怠慢にあるといわざるをえない。

学校給食が弁当に切り替わるととたんにカルシウム不足になるという調査結果がある。

夜更かしを容認する親や、おやつをのべつ幕無しに与えている親が増えているという調査結果も報告されている。

親が子供の食生活を破壊している。

繰り返し言うが、決して、親が仕事で忙しすぎるという言い訳は通用しない。

子供の食生活の乱れの典型である個食化について、親の年収や就業状態を調べたところ、

ほとんど有意な相関関係は見いだされなかったという。

私事で恐縮であるが、筆者は恵まれた食生活で育ったことに感謝している。

裕福でもなかったし、両親は共働きで、祖父母とわんぱくな3兄妹という、7人家族であった。

とくに祖父と父は生来病弱であったため、薄味で野菜と魚が中心の料理にならざるをえなかった。

それは食材を慎重に吟味し、料理に手間を掛けなければならないことを意味する。

それでも母は、多いときは5人分の弁当を作り、季節にあわせて、

ちまきを巻いたり、おはぎを作ったり、栗を煮たりと、季節の味を食卓に並べてくれた。

◆食育は社会全体の課穎

マスコミや研究者は「昨今、食に対する消費者の関心が高まっている」と吹聴する。

筆者に言わせればまったく逆である。

消費者はますます利便性重視の食生活になびき、都合が悪いごとがあると、

学校や政府や外食産業におしつけているだけではないか。

食生活を立て直すことは緊急の課題である。

食生活が乱れた環境で育った子供が親になったとき、当然にその子供の食生活も乱れることになる。

親が食生活を正さずに、子供の食生活だけがよくなることなどあるはずがない。

食育基本法が2005年に制定された。

この法律を読めばわかるとおり、食育は学校だけでなく、

社会全体が取り組むべきであることを主張している。

安易に学校に責任転嫁をしているかぎり、食生活の改善はない。

まず、われわれは、自分たち自身が利便性に流されるあまり食生活を乱してしまったという事実を直視すべきである。

そのうえで、食生活を改善することに金銭的な動機を与えるシステムを構築すべきである。

そのシステムの具体的設計図を拙著『日本の食と農』(2006年6月、NTT出版)で筆者は示した。

サントリー学芸賞を受けるなど、波紋を広げた著作なのでぜひ参考されたい。

ただ、あくまでも、手がかりは現実直視であることを忘れてはいけない。

明治学院大学教授 神門義久 (聖教新聞より) 


高栄養低カロリー食事(?)での健康・ダイエット記録は→こちら

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